店舗インタビュー

全国の相談薬局・薬店で健康相談を行っています

「いわき漢方堂」店主 渡邉幹二
No.2

創業60年。地元で長く愛されるために渡邉さんが心がけていることは何でしょうか?

地元のみなさんにとっての駆け込み寺でありたいと思っています。そのためにコミュニケーションを大事にしていて、話をよく聞くことに重点をおいています。

父が創業した当店は、来られる方は顔なじみの方が多く、風邪をひいたり、家族が病気したり、とにかく何か起きればすぐ相談にやってきている印象でした。父はいつも動じることなく向き合い、お客さんはいつも笑顔で「ありがとう」と言って帰って行ったのを覚えています。私は20代半ばまで別の道を歩んでいました。ところが父が体調を崩したのをきっかけにお店を継ぐことになります。それから父が他界するまでの3年間は一緒にお店に立ち、父から全てを受け継ごうと必死に勉強しました。その後、中国で漢方を学び、舌診、脈診、鍼灸などできることも知識も増えていきました。しかし、いくら知識が増えても、私が子供の頃にみた駆け込み寺に近づかないのです。ずっと父の背中を追いかけているような感覚でした。

なにかが足りないと思っていたとき、一人のお客さんとの出会いがありました。その方は、10年近くひざの痛みに悩まされていました。漢方を飲んで、まだ痛みは残っているが、少しずつ軽減しているので飲み続けたいと言ってくださいました。来店時は最近の様子をじっくり聞き、世間話もします。その中で「昔の人は足なんて出したことがない」と、おっしゃっていました。「今は昔より冷たいものが飲めるようになり、服装も薄着になっている」と。他愛ない世間話に、私ははっとしました。時代が変われば身体も変わって当然です。父から学び、本場中国で学んだ漢方がいまひとつしっくり来なかったのは、そのままだと現代人の身体に合わないのだと思いました。父が残したものを受け継ぐだけでなく、時代とともに変化しながら新しい形を作っていかなければならないのだと確信しました。それはお店、漢方、自分に対しても言えることだと気づきました。それからは、お客さんとじっくり話すことを大事にして、生活習慣や食生活、置かれている環境などを世間話のようにたくさん話していただくようにしています。

たとえば前述したように、最近の女性は冷えが慢性化しています。冷えは病気ではありませんが、病気になってしまう要素になるので見逃せません。手足が冷えていなくても内臓が冷えていることは良くあります。そういったことも、本人には自覚が無い場合が多く、話をしてみてわかることもあります。なので、話をよく聞くことを大事にしています。

じっくり話を聞く。そうすることで、駆け込み寺に近づけたのでしょうか。

少しは近づけたと思います。先ほどのお客さん、かれこれ10年通ってくださっています。毎月来られていますが、話題はつきません。その方がいつも、「漢方は私のお守り。それをもらいにお寺に通うようだ。」と言ってくださいます。とても有難いお言葉をいただけて嬉しい限りです。

時代と共に変化することが大事とのことですが、最近始めた新しいことは何かありますか?

今最も力を入れているのはダイエットです。漢エビデンスの中では言わずと知れたダイエットですが、私にとっては新しい挑戦です。というのも、ダイエットに対して私の勝手な偏見があったのです。疾患とは違いどうしても美容目的のイメージが強く、痩せたいという本人の意思が結果を左右してしまうのではと。そのサポートは難しいのではないかと思っていました。しかし、漢エビデンスの勉強会に出て情報交換をするうちに、肥満もあらゆる疾患の原因になるという危機感を持つようになり、思い切って挑戦してみようと思ったのです。

ダイエットを大きく打ち出して実行してみたところ、来てくださるお客さんがとても増えました。みなさん、漢方相談だとハードルが高くて行きにくいが、ダイエットだったら気負いなく行けるとおっしゃいました。それに、ダイエットで来てくださる方の大半が何かしらの疾患も抱えていることに驚かされました。これは美容ではなく、紛れもない医療だと感じました。もし私が偏見を持ち続けていたら、疾患を抱えた、痩せたいお客さんが行き場のないままだったかもしれません。そう考えると、古い常識や形式に固執していてはいけないなと改めて痛感しました。

今後、どのような駆け込み寺を目指していこうとお考えでしょうか?

ちゃんと、駆け込める寺を目指します。ダイエットでも疾患でも、色々やってダメだった人やどうすればいいか分からない人、とにかく困った人が相談に行ける場所。症状が辛くて気持ちが落ち込んでしまう、悪循環を絶てる場所でありたいと思います。しかし、寺の入口が狭い、見つけにくい、塀が高い、といざというときに駆け込めません。

父が作った駆け込み寺をベースに、駆け込みやすいように時代に合わせて変化させていく工夫や努力が大切です。漢方はこうであるべきだ。と固執することなく、柔軟性を持って新しいことに挑戦してきたいと考えています。時には西洋医学の科学的な根拠を使い、漢方の伝統的な経験則にのっとる。いろんな側面から身体をみることで、選べる選択肢が格段に増えます。選択肢が増えることは、なす術がなくなることを防げます。駆け込んだ先に「この一手しかありません」では、私の目指すところではないのです。駆け込み寺とは、言い換えると「最後にたどり着く場所」です。もしここでダメだったら他に行くところはないのかもしれません。そのためには、私にとっても、お客さんにとってもたくさんの選択肢があることが望ましいと考えます。それがこれからの漢方相談の在り方であり、私の目指す駆け込み寺なのです。

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